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大阪地方裁判所 昭和45年(わ)519号 判決 1977年5月25日

本籍

韓国慶尚北道高霊郡開津面九谷洞

住居

兵庫県西宮市甲子園口北町一九番一一号

遊技場・パチンコ店等経営

松山こと許権伊

大正一二年七月一四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官足達襄出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月および罰金一、七〇〇万円に処する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪市東区内久宝寺町において遊技場パチンコ店「本町会館」を、同市都島区東野田七丁目において遊技場パチンコ店「第一ホール」をそれぞれ経営するなどしていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、実弟許小権及び使用人中川良吉と共謀の上、

第一  昭和四一年分の所得金額は四六、一一一、〇三二円、これに対する所得税額は二五、七二三、二〇〇円であるのにかかわらず、売上収入金の一部を除外しこれによって得た資金を架空名義預金口座に預入して秘匿し、且つ、前記遊技場パチンコ店第一ホールの営業名義を前記使用人中川良吉の名義として自己の営業でないように仮装する等の不正行為により、右所得金額中三九、七四八、〇八六円を秘匿した上、昭和四二年三月一五日大阪市東区東税務署において、同署長に対し、被告人名義で、同年度分の所得金額が六、三六二、九四六円、これに対する所得税額が一、九九八、八七〇円である旨の、同月一三日、同市旭区旭税務署において、同署長に対し、前記中川良吉名義で、同年度分の所得金額が三、三五六、〇〇〇円これに対する所得税額が七四三、一一〇円である旨の過少に分散し虚偽記載をした所得税確定申告書を各提出し、よって、同年度分の所得税二二、九八一、二〇〇円を免れ

第二  昭和四二年分の所得金額は七八、九五四、七八二円、これに対する所得税額は四九、五六一、八〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正行為により、右所得金額中七四、七二七、一八八円を秘匿した上、昭和四三年三月一五日、前記東税務署において、同署長に対し、被告人名義で、同年度分の所得金額が四、二二七、五九四円、これに対する所得税額が一、〇〇七、六〇〇円である旨の、同月一三日、前記旭税務署において、同署長に対し、前記中川良吉名義で、同年度分の所得金額が五、三五〇、〇〇〇円、これに対する所得税額が一、五三九、六〇〇円である旨の過少に分散し虚偽を記載した所得税確定申告書を各提出し、よって同年度分の所得税四七、〇一四、六〇〇円を免れ

たものである。

(なお、各年度の脱税額計算書は別紙1.2.のとおりである。)

(証拠の標目)

判事各事実につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、第三二回、第三三回各公判調書中の被告人の供述部分

一、被告人の検察官に対する各供述調書、大蔵事務官に対する各質問てん末書(昭和四四年三月二八日付、同年四月一七日付、同年一〇月二日付)

一、被告人作成の各確認書(本町会館の損益についてのもの、銀座ビルの借地料についてのもの)、上申書

一、第六回公判調書中の証人馬場種治の供述部分

一、第九回公判調書中の証人尾崎増嗣の供述部分

一、第一〇回公判調書中の証人阪本重機の供述部分

一、第一三回公判調書中の証人山川豊子の供述部分

一、第一八回、第一九回各公判調書中の証人中川良吉の供述部分

一、第二〇回、第三〇回各公判調書中の証人許小権の供述部分

一、第二二回公判調書中の証人赤松英彦、同勝田利一の各供述部分

一、第二三回公判調書中の証人河田忠義の供述部分

一、第二六回公判調書中の証人宮本昭夫の供述部分

一、第三一回公判調書中の証人兼城和夫、同山本仁、同福井輝雄、同金沢一男の各供述部分

一、中川良吉、許小権の検察官に対する各供述調書

一、小村喜治、上室亀次郎、山内政蔵、尼崎財務事務所作成の各回答書

一、平井雅三、渡辺誠一、山川豊子、河田忠義、許小権(たな卸資産についてのもの)作成の各確認書

一、平井雅三作成の上申書

一、大蔵事務官赤松英彦外六名作成の銀行関係調査書類

一、国税査察官長田和昭、同大槻勝、同末沢正純外一名、同勝田利一作成の各調査書類

一、大蔵事務官勝田利一作成の各調査書類

一、押収してある総勘定元帳六冊(昭和四六年押第八七二号の2)、経費明細帳五冊(同号の3)、申告書・決算書一綴(同号の4)、家賃金領収之通一通(同号の5)、振替伝票一綴(同号の6)、売上帳一冊(同号の7)、振替伝票一二綴(同号の8)、ノート三冊(同号の9)、借用書等一綴(同号の11)、振替伝票六綴(同号の12)、手形受払帳三冊(同号の13)、経費明細帳三冊(同号の14)、振替伝票九綴(同号の15)

判示第一事実につき

一、被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書(昭和四四年五月一二日付、同年八月二二日付)

一、第七回公判調書中の証人角田亨の供述部分

一、第八回公判調書中の証人中村英祐の供述部分

一、第一三回公判調書中の証人田川浅治の供述部分

一、任書河の大蔵事務官に対する質問てん末書

供述を中心に検討する。

1. 出資関係

第一ホールの取得資金について、被告人は「ビーアンドビーを処分したことによって得た六、三〇〇万円で第一ホールを買ったが、そのお金は日本橋商事の中川さんと共同の金だと思う」旨供述し、中川良吉は「ビーアンドビーの利益の半分一、〇〇〇万円位の取り分があるから私の資金は私が出した」旨証言している(第三二回、第一八回各公判調書)。そして、ビーアンドビーに関しては、被告人は、「店を借りる保証金、造作費などのため約三、〇〇〇万円の金を現金で中川良吉に渡し、日本橋商事も一、〇〇〇万円ぐらい出したと思う」旨供述し、他方、中川良吉は「日本橋商事の増資金一五〇万円か二〇〇万円は青山という人が出し、それ以後の金は松山氏が出した」「ビーアンドビーの取得に二、四〇〇万-二、五〇〇万円かかった」旨述べている(第三二回、第一八回、第一九回各公判調書)。このように両者の供述は重要な点でくい違いがあるのみならず、中川良吉の供述によれば「日本橋商事(株)は衣料品専門の卸のときもビーアンドビーの経営のときも結局赤字でやめた」というのであるから(第一九回公判調書)、ビーアンドビーの利益(売却利益)に中川良吉の取り分が何故生じるのか理解し難い。また、この点について、被告人は「中川さんと共同の金だと思う」といい、中川良吉は「松山氏の取り分がいくらで私の無形と申しますか経営老舗料がいくらというような‥‥突込んだ話し合いはしていなかった」旨供述しているにすぎない(第三二回、第一九回公判調書)。

2. 不動産の所有名義

第一ホールの不動産の所有名義について、被告人は「私の名義にした分もあるし、家内の弟(賓海彰)及び南北商事の宮本名義としたものもあり、中川良吉は営業の名義人とすることで了承してもらった」といい、他方、中川良吉自身は「建物を私名義にして経営も私名義にしてもらった」旨供述している(第三二回、第一九回各公判調書)。この点でも両者の供述は相違するのみならず、被告人は検察官から「共同経営ならなぜ中川と土地建物を共有にしなかったか、」と聞かれて「最初の中川さんのときは小さかったんですからね」と不得要領に答えているにすぎない(第三四回公判調書)。

3. 勤務情況

中川良吉は「当初二年程ずっと第一ホールに勤務したが、その後は許小権に任せ、昭和四〇年からは岡山誠剛と許権伊の要請により出屋敷のボーリング場に行くようになり、第一ホールから次第に遠ざかるようになった」旨供述しているが(第一八回公判調書)、第一ホールの共同経営者が第三者たる許小権にその経営を任せ自らは使用人として他所で勤務するというのはいかにも不自然である。

4. 経営業績のは握、報告

中川良吉は「月々の営業報告を受けており、申告のとき帳面も見たが、仮名の預金については知らなかった」といい(第一八回、第一九回各公判調書)、被告人は「第一ホールについては、中川と許小権がやっていたので、全然何も知らない」「収益は大体月一〇〇万円ぐらいあると聞いていた」旨供述している(第三三回公判調書)。他方、許小権は「大ざっぱな計算はやってましたけど、きっちりした貸借は出してなかった」旨供述している(第二〇回公判調書)。しかし、中川良吉が実質的に共同経営者であったなら当然その持分に応じた利益分配を受けるための収支計算がなされるのが普通であるし、また仮名の普通預金の存在を知らなかったのは逆に実質的な経営権があったかどうかを疑わせるに十分である。

5. 利益分配

被告人は「年間五〇〇万円程度は貰った」「中川から報告を受けて配分の形にしてもらった」「大体五分五分ぐらいの程度だと思う」旨供述し(第三三回、第三四回各公判調書)、他方、中川良吉は「第一ホールからは、月一〇万円のほか年間一〇〇万円程度は交際費的なものとして使ったが、取り分として貰ったものはない」というのである(第一八回公判調書)。

以上、共同経営に関する被告人や中川良吉らの公判段階における供述を検討したが、供述自体が曖昧であるうえ、重要な点でくい違うなど、信用性に乏しく、他に第一ホールが両者の共同経営であったことを示す証拠はない。被告人、中川良吉、許小権の検察官に対する各供述調書など前掲各証拠を総合すると、第一ホールは、判示のとおり、被告人が経営するものと認められるのである(仮りに被告人と中川良吉との共同経営であったとしても、その当時において持分に応じた利益分配がなされた形跡もなく、また、利益分配について具体的な話し合いもなされておらず、第一ホールの収益は専ら被告人が享受していたと認められるので、これを被告人の所得として被告人に課税することは実質課税の原則に反するものではない)。弁護人の右主張は採用しない。

二、第一ホールの売上金額について

1. 昭和四一年分

(1)  検察官主張売上額は、別紙3のとおり、二八〇、五六七、二三七円であるが、当裁判所は、それより五、六〇〇、四六〇円減額して、次のとおり、二七四、九六六、七七七円と認定した。

(イ) 公表金額については、検察官と同様、中川良吉名義の当座預金入金額と景品仕入額とを総計し、一九九、八七六、一〇〇円と認定した。

(ロ) 除外金額については、昭和四二年分の公表率を七二・六九一%(検察官主張の公表率は七一・二四%)と認め、これを基に別紙4のとおり算定し、七五、〇九〇、六七七円(検察官主張額は八〇、六九一、一三七円)と認定した。

(2)  弁護人は、昭和四一年分の売上(除外)金額を昭和四二年分の公表率を基に算定したことにつき、「納税者は毎年継続して同率割合の売上除外を行うとの蓋然性は認められないから、このような推計は許されない」旨主張している。しかしながら、当裁判所としては、以下に述べる如く、関係証拠を総合した結果、第一ホールにおける昭和四一年~昭和四二年の営業状況には格別の変化もないことなどの事実が認められるので、これらにより両年度の売上実績もほぼ同程度と推認され、前記推計には十分な合理性があるものと判断したものであって、弁護人がいうような単純な蓋然性のもとに勝手な臆測を加えて売上(除外)金額を推計したものではないのである。弁護人の主張は採用しえない。

(イ) 被告人は、査察官の質問に対し、第一ホールの昭和四〇年から四三年の廃業までの営業状態について「各年とも特に営業方針を変えたこともなく、近くに新しい店が増えたということもないので、売上や利益に変動があったとはいえません。もっとも昭和四二年にオリンピアをやりましたが、期間も短かく、営業当初はよく、下火になったらすぐやめましたので、変動はありませんでした」と答え(昭和四四、一〇、二日付質問てん末書)、検察官に対しても「各年大体同じように推移し、年によって特別の変化があったようなことはない」旨供述している(昭和四五、二、一二日付供述調書)。また、許小権も「パチンコの機械を四ケ月位の間隔で入れかえるのを繰返してきた。月によって客の入りの良い月と悪い月はあったが、各年特別の変化はなかった」旨供述している(検察官に対する供述調書)。

(ロ) 次に、第一ホールの昭和四一年及び昭和四二年の景品仕入金額の売上高に対する割合(原価率)と粗利益率(内)をみるに、昭和四一年が六二・五三四%(三七・四六六%)、昭和四二年が六二・一六七%(三七・八三三%)と、ほぼ類似することになる。この点からは、昭和四一年分の公表率による売上(除外)金額の計算はむしろ「控え目」ということができよう。

四一年 四二年

仕入合計<1> 一七一、九四八、八四六円 一七四、七七二、五四一円

売上高<2> 二七四、九六六、七七七円 二八一、一三四、〇四一円

原価率<1>/<2> 六二・五三四% 六二・一六七%

(ハ) なお、昭和四一年分の売上除外金額は、弁護人が主張するように、浪速信用金庫京橋支店の仮名普通預金入金額四一、七九八、〇〇〇円の限度に止まるものと認むべきかどうか、以下この点について検討する。まず、浪速信用金庫京橋支店における中川良吉名義の当座預金入金額と検察官主張の仮名普通預金入金額を昭和四〇-四二年の各月別に対比すると別紙5のとおりとなる。これを検討すれば明らかなとおり、仮名普通預金の入金額は、昭和四〇年、四二年とも当座預金入金額を五〇%程度上廻っているのに、昭和四一年については八一%に止まっており、特に四一年六月-九月は極端に仮名普通預金の入金額が少ないことが判る。従って、昭和四一年について、特段の事情がない限り、同程度の営業規模からは同程度の売上除外がなされたと推定することは一応合理性があるものといえよう。

次に、仮名普通預金の設定解約状況を検討すると別紙6のとおりとなる。これを見れば、昭和四一年四月~九月の間に検察官主張以外の普通預金に売上が入金されている疑が濃厚であり、市原努、武川浩次、渡辺明の各名義普通預金口座への入金額も売上除外額の入金と考えてよい様にも思われる(大山一夫名義普通預金の入金額が検察官主張額から洩れていることは阪本重機の証言に照らし明らかであろう。)問題はこれらの入金額を加算したもの(四九、二五八、〇〇〇円)が売上除外額のすべてであるかどうかである(別紙7参照)。換言すれば、他に未発見の口座があったと考えるか、銀行調査書類中の他の口座への入金にも充てられていたと考えるかどうかである。

昭和四一年当時第一ホールからの集金業務に従事した銀行員角田亨は「日曜日と第一ホールの休みの翌日以外は毎日集金に行き、現金のうち福祉事業協会に支払う分を除いてすべて入金していた。部長か奥さんの指示により当座預金と普通預金への入金額の振り分けをした」旨証言し(第七回公判調書)、中村英祐、尾崎増嗣も同趣旨の証言をしている(第八、九回各公判調書)。これらの証言を総合すれば、殆んど毎日仮名普通預金へも入金があったようにも考えられるが、その点は必ずしも明確でなく、また、当座預金と普通預金への入金割合も明らかでない。そこで、昭和四一年と四二年の六-八月について日別に普通預金入金額と当座預金入金額を対比してみると、別紙8のとおりであって、当座預金への入金額はむしろ四一年の方が多いのに、仮名普通預金への入金は、昭和四二年六-八月は殆んど毎日といってよい程あるのに対し、昭和四一年六月-八月は回数、金額とも少ないことが分る。従って両年の営業規模や営業方針に特別の事情がないとすれば、昭和四一年の仮名普通預金の入金状況が不自然と考えてよいものと思われる。(仮名普通預金にも当座預金にも入金しなかった売上除外金をどうしたかという疑問は残る。担当銀行員の証言によれば、売上除外金は百円札又は硬貨を中心とした小銭が多かったというのであるから、直接これを営業外の支払に当てたとは考え難く、他に未発見の預金口座があったと考えるのが自然のように思われる。)

(3)  以上の次第であって、結局のところ、昭和四一年分の売上(除外)金額計上の妥当性は、昭和四二年分の売上(除外)金額が正当かどうかによって決まるものと考えられるのである。

2. 昭和四二年分

検察官主張総売上額は、別紙3のとおり、二八六、八五四、七五五円であるが、当裁判所は、それより五、七二〇、七一四円減額して、次のとおり、二八一、一三四、〇四一円と認定した。

(イ) 公表金額については、検察官と同様、中川良吉名義の当座預金入金額と景品仕入額とを総計し、二〇四、三六〇、四七九円と認定した。

(ロ) 除外金額については、別紙9のとおり算定し、七六、七七三、五六二円と認定した。これを説明すると次のとおりである。

検察官によると、同年中の浪速信用金庫京橋支店における桜井政美ほか一二名名義の仮名普通預金(松山圭樹名義の当座預金を含む)への入金額八二、四九四、二七六円の全額が売上除外であるというのである。ところで、前掲銀行関係調査書類などによると、そのうち、合計一、六八〇、〇〇〇円(杉田忠名義分六八〇、〇〇〇円、上山一男名義分一、〇〇〇、〇〇〇円)については、同年七月三一日に右預金より出金のうえ同店の公表売上金額と認められる中川良吉名義の当座預金に入金されていることが明らかであり、その方で売上金(公表分)として認定すべきものであるから、これを重ねて売上(除外)金額として扱うことはできないものである。

次に許小権、兼城和夫、山本仁、福井輝雄らの供述(第二〇回、第三〇回、第三一回各公判調書)、銀行関係調査書類など前掲各証拠によると、検察官の右主張額には、第一ホールの売上金以外のものが混入している疑いの余地があるが、その金額は、一応、許小権の貸金回収額と認められる合計三、八〇〇、〇〇〇円(兼城和夫分二、〇〇〇、〇〇〇円、福井輝雄分五〇〇、〇〇〇円、山本仁分一、三〇〇、〇〇〇円、検察官主張の売上除外額八二、四九四、二七六円から前述の当座重複分一、六八〇、〇〇〇円を差引いた八〇、八一四、二七六円の四・七〇二%相当額)というべきであるが、疑いの余地を残さず確実を期するとの観点から、多目にみて、四、〇四〇、七一四円(上記八〇、八一四、二七六円の五%相当額)と認めるのが相当であると判断した。

この点に関し、弁護人は、右以外にも非売上金が混入している旨主張するのであるが、そのうち金沢一男関係については、もともと検察官主張の売上除外分(桜井政美ほか一二名名義の仮名普通預金など)にも含まれておらず、当裁判所も売上除外金と認定しているわけではないから、その主張は主張自体失当というべきであり、このほか、許小権が「白川健太郎、福島栄作、高島にも個人貸をしたり、また当時何千万という金を動かし一千万も儲けた金も第一ホールへ入れた」旨供述している(第三〇回公判調書)点についても、右供述は極めて抽象的で具体性に欠けていて措信し難い。前掲各証拠を総合するときは、右以外には非売上金の混入はないものと認められる。弁護人の主張は採用しえない。

3. 弁護人は、第一ホールの昭和四一、四二年分の売上高につき、益原八千夫の証言や被告人の供述を援用して検察官主張の売上高や右認定の売上高が過大である旨主張しているのであるが、右益原八千夫の証言は単に一般論としてパチンコ業界の業態を述べたに過ぎず、被告人の供述もまた一台当りの売上げが幾らという抽象的なものであるに過ぎない。この点についての弁護人の主張も採用しえない。

三、貸倒金の経費算入について

弁護人は、事業所得の損失として木村峯夫、日満興業(株)に対する貸倒金三四、四一五、一四七円及び(株)銀座に対する支払利息二、二一一、七五四円を四一年分の、また進藤のぶえの一〇、五〇〇、〇〇〇円を四二年分の必要経費に算入すべき旨主張している。

1. ところで、金銭の貸付から生ずる所得が事業所得に該当するか否かは、その貸付の相手方、貸付の目的、貸付口数、貸付金額、利率、担保権設定の有無、貸付資金の調達方法、貸付のための施設および広告宣伝の状況、その他諸般の状況を総合勘案して判定すべきものである。これを本件についてみるに、まず弁護人は、大阪クリタ販売(株)外四名に対する手形割引料がある点をとらえて、「担保をとって貸付を行ない、他人も被告人が金融業を営むものと認めていた」旨主張するけれども、大阪クリタ販売についていえば、取引の経過からみても、加古利和のいう「いいスポンサー」即ち銀主の立場を出るものでなく、他の四人についても知人を通じて導入預金をしたり(大東健治、和泉章)、知人の債権の肩代り(進藤のぶえ)といった域を超えない。そして被告人自身「人から頼まれた場合だけ断り切れないので同情して貸していた程度である」旨供述し(昭四四、二、一二日付検面調書)、弁護人の「四〇年から四三年頃の時だけですか」との問に「そうです」と答える(第三三回公判調書)などの点と、貸金業の免許もなく、独立の事務所を設けたり、帳簿等を備えたり、積極的に顧客を求めたり、広告宣伝を行なった形跡も見当らないなど、被告人の金銭貸付行為は、全体としてみても、未だ営利のため不特定の者に対し一個の独立の企業として有機的継続的に行なわれたものと認め難く、金融業としての社会的実体をもったものとはいえないと認められる。

2. 次に進藤のぶえに対する貸付金についてみるに、同人が昭和四四年一二月当時既に無資産であったことは明らかであり(昭和四四、一二、三日付同人質問てん末書)、単に同人の返済意志のみを根拠として貸倒れを否定することは妥当でないが、同人の質問てん末書によれば、昭和四三年四月にも被告人から借用証書を差入れて二七一万円の借入れをし、合計五、八七一万円の元本となったが、当時大原山の処分もなされていなかったと認められるのであるから、昭和四二年末の時点で、昭和四二年一一月頃貸付の六〇〇万と四二年六月貸付の五〇〇〇万円に対する天引利息四五〇万円の貸倒れを認定するのは早過ぎるといわざるを得ない。

3. 以上の次第であるから、これらの点についての弁護人の主張も採用しえない。

四、昭和四二年分受取利息割引料について

大阪クリタ販売(株)にかかる被告人の昭和四二年分の受取利息割引料は取調済の関係証拠を検討しても、五、五四九、一〇〇円であって、検察官主張額(五、五九九、一〇〇円)より五万円減少すべきものと認められる(別紙10参照)。

(法令の適用)

一、判示各所為

各刑法六〇条、所得税法二三八条一項、二項(いずれも懲役と罰金を併料)

一、併合罪の処理

刑法四五条前段の併合罪、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(重い判示第二の罪の刑に法定の加重)、罰金刑につき同法四八条二項

一、懲役刑の執行猶予

同法二五条一項

一、労役場留置

同法一八条

一、訴訟費用の負担

刑事訴訟法一八一条一項本文

よって主文のとおり判決する。

昭和五二年九月一〇日

(裁判官 栗原宏武)

別紙1

脱税額計算書(41年分)

許権伊

<省略>

(注)外書はみなし申告税額である。

別紙2

脱税額計算書(42年分)

許権伊

<省略>

(注)外書はみなし申告税額である。

別紙3

第一ホール売上計算表(検察官主張額)

<省略>

別紙4

昭和41年売上金額の算定(第一ホール)

(42年分)

公表金額<1> 除外金額<2> 総売上額<3>

204,360,479円+76,773,562円=281,134,041円

<省略>

(41年分)

公表金額<4> 総売上額<5>

199,876,100円÷0.72691=274,966,777円

除外金額<6>=<5>-<4>=75,090,677円

別紙5

当座預金・仮名普通預金入金額調

<省略>

(証拠)第3冊 昭和45.1.24日付、赤松英彦 外6名 調査書

(注) 昭和42年7月の中川良吉名義当座預金入金額の検察官主張額は7,002,845円であるが、うち1,680,000円は杉田忠および上山一男名義普通預金からの入金額であるので減額した。

別紙6

仮名普通預金設定解約状況調

<省略>

<省略>

別紙7

仮名普通預金入金額調

<省略>

別紙8

仮名普通預金 当座預金 入金額調(日別 41/6~8 42/6~8)

<省略>

別紙9

昭和42年売上除外金額の算定(第一ホール)

<省略>

別紙10

利息割引料の明細

(大阪クリタ販売(株)関係)

<省略>

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